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Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationship:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2009-08-10
Completed:
2009-08-10
Words:
16,314
Chapters:
7/7
Kudos:
2
Bookmarks:
2
Hits:
102

やってしまいました。

Summary:

悪友コンビのラブコメ。

Romantic comedy of bad friends.

Chapter Text

 ズキズキ痛みを主張してやまない頭を持ち上げるには多少の思い切りがいる。ゆっくりゆっくり、俺はあらん限りの腹筋を酷使して、上半身を垂直に立てることに成功した。瞼を開けると何も身につけていない美しい体が目に入った。無論俺のだ。金色の胸毛が朝日に輝き、神々しいきらめきを放っている。今日も朝から快晴ってわけだ。ベッドルームには時計を置かないと決めているから正確な時間を知る術はないが、太陽の角度からして正午が近いことは確実だった。ならばpetit déjeunerからpetitを取ればいい。そうだろ?
 しかし俺の快適な目覚めは唐突に打ち切られた。というのもキングサイズのベッドの上に、見知った他人を発見したからである。
 ──スペイン?
 俺は声に出してしまいそうになるのをすんでのところで抑えた。かつて太陽の沈まない国と称され、今はぱっとしない経済状況のこの隣国が、何故俺のベッドで寝ているのだ? しかも衣服を身につけていないときている。いや、俺が真っ裸なのは今日に限ったことではないし、こいつが真っ裸なのもさして珍しくない。けれど二人揃って一糸まとわぬ姿、というのは滅多にない事態だった。そして場所が場所である。純白のシーツの波は、ヌーディストビーチのそれではないのだ。
 待て待て待て。落ち着いて昨晩の行動を思い返してみるがよい、自分。俺は髪の毛をかき回しながら回想の海へ沈んでいった。昨日はスペインが一週間の休暇を取った、ロマーノのところへ遊びにいくついでにお前のうちに寄るから泊めろと言ってきたので、二十時以降なら相手をしてやらんでもない、と合い鍵を渡したのだった。
 帰ってきて二人で飲んだ。相手は付き合いの長い悪友であり、節度のある飲み方を心がけたとは言わない。羽目を外して暴れ回ったような気がしないでもない。俺はもちろん服なんていらぬものはさっさと脱ぎ捨てたし、スペインは──スペインはパンツ一丁でトマトとチーズにオリーブオイルをかけて貪り食っていた。今年もトマトが豊作や、とか何とか言って。
 そこまでは通常のプロセスで、問題はそれ以降である。あろうことか寝室に移動した覚えが一切ない。家の者は皆帰してあったので、俺かスペインはたまた俺たち両方がベッドへの道のりを歩んだに違いなかった。
 ということはスペインが全裸の俺を運んだのか?
 まさか。俺は即座にその考えを打ち消した。こいつの性格と昨夜の状況から鑑みて、全裸の男を運搬するくらいなら、居間のソファに転がしておくのが適当だった。スペインはこの特注ベッドを大層気に入っていて、そこに俺という個体は含まれていない。独り占めできるならする男なのだ、あいつは。ブランケットの一枚くらいならかけてくれるかもしれないが。
 起床してからここまで鋭い考察を巡らせていた俺が、ある特徴的なにおいに気付いていなかったと言うのは誤りである。俺は絶対的に気付いていたし、その上であえて頭から追いやろうとしていたのだ。しかしそろそろ考えないわけにはいかなくなった。体中がベタベタなのは汗だけのせいなのか、あるいはこのにおいの元となる液体もその一因であるのか。それを確かめたら記憶の穴を埋める重要な手がかりになると思ったのだ。
 俺は注意深く周囲を見渡した。スペインが一体と深紅のバラの花びらが散っている他、部屋には異常も異物もなかった。オッケーオッケー。俺はスペインを起こさないよう恐る恐るベッドの縁に這い進んだ。そしてつま先を絨毯に接しようとしたところで凍り付いた。
 床の上には穴を埋め戻すに十分すぎる証拠品がまとめて転がっていたのだ。
 くらくら目眩がした、なんて表現じゃちっとも足りない。目の前が真っ暗になって足下が崩れ落ちた、でもまだ足りないだろう。今までの人生──国として歩んできた千年超の年月──が走馬燈のように駆け巡った。つまり死と同程度のショックを受けたのである。死ななかったのはひとえに俺の心臓が丈夫だったからだ。ってか二回もかよ。そんなによかったなら覚えておけばよかった、惜しいことをした。って違うか。
 自分はイギリスに次ぐ変態とされている。美の求道者であらんとする姿勢が時としてそう映ってしまうのは、悲しいけれど仕方のないことだ。スペインにも散々手を出してきた。キスはどこまでいっても挨拶だし触り合いだってそうだ。きわどいタッチもあったろう、しかし最後の一線を越えたりはしなかった。結合まではいかなかった、断じて。婚姻関係を結んでいた頃はまだしも、俺たちは別個の国である。楽しみは先延ばしに──って違うってば。吹けば飛びそうなものであるにしろ、理性があったのだ。
 ──これまでは。
「ん……」
 ぱっと振り向くと、スペインが眠りから醒めようとしていた。マズい。何だか全てがマズい。俺は慌てて元の位置にとって返し、とりあえず狸寝入りを決め込むことにした。もしかしたらこれは俺の灰色の脳細胞が上演中の夢であり、目を閉じれば元の世界に帰れるのではないかという一縷の望みに縋って。諦めが悪いだなんて言わないでくれよな、いくらお兄さんでも泣いちゃうから。