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Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationships:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2022-11-18
Words:
6,636
Chapters:
1/1
Kudos:
17
Hits:
319

[日本語訳] this song will be endless

Summary:

To:未登録
>どうも。今朝貰ったチップに番号が書かれてたから連絡してみたんですが
>手持ちのお金全部に連絡先書いておくタイプ?

From:未登録
>何

画面を睨み、スングァンは眉根を寄せた。何って何が?あと、疑問形もまともに使えないの?

Notes:

  • A translation of [Restricted Work] by (Log in to access.)

⚫︎この作品は英語からの翻訳です。
オリジナル:chatsdelune様 / "this song will be endless"
作者様より翻訳・公開のご許可をいただいています。

⚫︎別ウェブサイト等への無断転載、および不特定多数の方の目に触れる可能性のある場所(掲示板やSNS)へのリンクの共有などの行為は絶対におやめください。

Work Text:

朝8時からの講義なんて取るんじゃなかった。
ハンソルは自分の選択のすべてを悔やんでいた。こんな時間に人間が起きていていいわけない。おまけに勉強のために脳を使うなんて論外だ。人道に反してる。

チャンはどうやらこの規則正しい生活を気に入っているようで、いつもちゃんと服を着て、髪もきれいに整えている。自分は前の日の夜に着ていたのと同じスウェットを履いて、積み上がった服の中から上に着るものを見つけられればラッキーな方だっていうのに。
とはいえ普段はそれで十分。次は同じ過ちを繰り返さないように、なんとか今学期をやり過ごすだけ。

その日の朝、ハンソルがチャンに引きずられてたどり着いた先は、入ったことのないカフェだった。注文しようとイヤホンを外し、メニューから視線を上げてバリスタの顔を見たところで、ハンソルの頭は真っ白になった。メニューの内容も、他の考えも、全てが頭から消える。

チャンが急かすようにハンソルを肘で小突くのを目にしても、カウンターの向こうに立つバリスタは、丸い頬に浮かべた柔らかい笑顔を絶やさなかった。きっと、年配の女性たちにつねられることもあるんだろうな。かわいい。彼の顔に似合うほっぺただ。
もしかしたら自分はもう死んでいて、ここは天国の入り口で、目の前に立っているのは迎えに来てくれた天使なのかもしれない。「かもしれない」というか、多分そうだ。90%くらいの確率で。

バリスタの笑顔に少し訝しげな色が混ざり始めたタイミングで、チャンの2回目の肘鉄が脇腹に食い込んだ。

「……アメリカーノで」

なんとか注文を絞り出す。

「アイスとホットどちらにされますか?」

バリスタが明るい声で言う。スングァン。胸の名札には綺麗な字でそう書いてあった。

「アイスでお願いします」

すっかり役立たずと化したハンソルに代わってチャンがオーダーを終わらせ、支払いを済ませる。目の前のバリスタ——スングァン——がカウンターに背を向けて二人のドリンクを用意しに行ったところでようやく、呼吸の仕方を思い出したような気がした。

「ヒョンどうしたの?」チャンがハンソルの耳元で聞いた。位置のわりに声が大きすぎる。
「疲れてるだけ」

一言で返事を済ませる。こっちの方が「バリスタに見惚れて声も出なかっただけあとお願いだから毎日ここのカフェ通うことにしない?」より説明がラクだし。

「あー、そうですか」納得していない声音の返事が返ってきた。「あとでコーヒー代返してくださいね」

☕️☕️☕️

チャンが知っていることは色々ある。

何をと言われたら困るけど、それなりに色々と。例えばハンソルが最近どうもご機嫌斜めなこととか、もう何か月も誰ともデートしていないこととか。
そして、その二つはどうやら結びついているとみた。なぜって、自分も誰かと付き合っていた時期は気分がよかったから。この因果関係はきっと宇宙の法則だ——まだ他の誰にも解明されていないだけ。

だって、もしA=BでB=Cだとしたら、A=Cになるでしょ?
同じこと。

つまり、ハンソルの電話番号を書いた1000ウォン札を目の前のバリスタのチップ入れに紛れ込ませたのには、実に合理的な理由があったってわけだった。あと、自分以外にあんなにお尻のラインが綺麗な人を見たのは初めてだったから。これも一応、チップの理由。
普段ならすぐにバレるし、余計なことをするなと怒られるところだけど、完全にバリスタに目を奪われていたヒョンの隙を突くのは簡単だった。

イ・チャン、1勝。チェ・ハンソルの恋愛シーズンオフ、1敗。
お節介かもしれないけど、そうなればいいねと期待を込めて。

☕️☕️☕️

カフェで働いていると、ぼんやりした様子の客がやって来るのはちっとも珍しくない。当たり前だよね。カフェインが必要な人間が来る店なんだから。
でも、ぼんやりしていて、かつとんでもなく美形な人が来るのは、全然当たり前じゃない。

イヤホンをぶら下げながら、アイスアメリカーノを買っていった若い客。あんなにぐちゃぐちゃな髪でもちゃんとかっこよく見える人、初めて見た。1秒前までベッドでぐっすり寝てました、みたいな格好してたのに。ほんと世の中って不公平じゃない?
またいつか来るかな。

残りの勤務時間中のスングァンの頭の中は、彼のことでいっぱいだった。こういう時はマルチタスクが得意でラッキーだったと思う。スングァンにちょっかいを出すのが好きな女性客たち——うまく相手をすればチップを弾んでくれる奥様方——は、毎日休むことなくやって来るから。
そう、例えば今みたいに。

「あなたの彼女はきっと幸せ者ねえ!」

年齢はきっとスングァンの母親と同じくらい。高級そうなジュエリーで着飾って、スングァンの一週間分の給料よりずっと高そうなコートを身に纏った女性客が、ソイラテを受け取りながら言った。その言葉と引き換えに、5000ウォン札がチップ入れに吸い込まれていく。
まあ、そうかもね。そもそもスングァンに付き合っている相手がいれば、だけど。あとそれ以前に、女の子に興味があればの話。

「奥さんの旦那さんの方が幸せ者なんじゃないですか?」

優しく返事をする。

「お世辞が上手なんだから。また明日ね」
「はい、素敵な一日を!」

去り掛けにスングァンの腕を柔らかく叩いていった女性を、スングァンはとびっきりの営業スマイルで見送った。ちょっとは申し訳なく思うべきなのかな?でも、これも必要なこと。毎月勝手に届く請求書たちが、自分の支払いを済ませてくれることなんてないんだから。
スングァンが自分用のコーヒーを用意していたところで、ジョンハンがカウンターに入ってきた。シフト交代の時間だ。

エスプレッソマシンの周りを拭くスングァンの横を通り過ぎたジョンハンがレジの前で立ち止まり、チップ入れの瓶をじっと見つめる。

「スングァナ。何したらこうなるの?この顔を差し置いて、」
自分の顔を指差しながらジョンハンが言う。「こんなに稼ぐなんてさ」

そう、確かにこのヒョンはかっこいい。でも同時に、彼の美貌はどこか小悪魔的なのだ。小悪魔っぽいのは見た目だけじゃなくて中身もだけど——もちろんこれは個人の意見。
金持ちの夫の財布を握ってる40代の奥様方は、そういう男にはあまり興味がないらしい。

「まず一つ目ね。無駄に傷付きます、それ」

チップ入れをレジ前から素早く掠め取る。

「二つ目。暇な奥様たちに僕の方が好かれるのは僕のせいじゃないし。せっかく常連なんだから、スニョンイヒョンにチップをケチるなって言ったらどうですか?」
「スニョンなら"他の方法"で十分埋め合わせしてくれてるよ」

カウンターの下に荷物を押し込みながらジョンハンが返す。

「教えてもらえてよかったです」

皮肉を言いつつ、スングァンは瓶から取り出したチップをエプロンのポケットに詰め込んだ。

「チップ<先っぽ>関連ならもっと濃い内容の話もできるんだけどね」

いえ、結構です。かがみ込んでリュックを引っ張り出しながら、ふざけてオエッと吐く真似をする。

「今度でいいです!また明日ねヒョン」

ニコニコと手を振るジョンハンに背を向けて、スングァンはカフェを出た。店から自分の姿が見えなくなるまで待ち、声を出して笑う。
少なくとも、年上の女性たちに6時間おだてられ続けた自分のことを、ジョンハンはこうして現実に引き戻してくれる。本当にありがたい同僚で、友人だ。

アパートまでは歩いて数分。部屋に帰り着き、スングァンは荷物を下ろした。エプロンを取り出して、ポケットの中身をテーブルの上にぶちまける。
ぐちゃぐちゃのチップを半分くらいまで整理したところで、一枚の1000ウォン札の裏に書かれた手書きの文字が目に留まった。電話番号だ。

スングァンは数秒間番号を見つめてから、チップの山に戻した。何事もなかったかのように作業に戻る。

一枚、また一枚とチップの札をその上に置くたびに、戻したチップが気になる気持ちが強くなる。
お金に個人情報を書く人がいるなんて信じられない。いつどこの誰が受け取るかも分からないのに。……でも、書かれたのはいつだったんだろう?もし今日だったら?もし、書いたのが彼——アイスアメリカーノを買った、イヤホンの客だったら?

やめよう。ありえない。そもそも、チップを入れたのはもう一人の方だったし。綺麗な顔してたけど、タイプってわけでもないし——

スングァンは、例の1000ウォン札を積み重なったチップの中から掘り出した。書かれた電話番号をもう一度じっくり見つめる。
うん、やっぱり気になる。もし別の人に繋がったら番号ごとブロックして、なかったことにすればいいだけだ。

To:未登録
>どうも。今朝貰ったチップに番号が書かれてたから連絡してみたんですが
>手持ちのお金全部に連絡先書いておくタイプ?

From:未登録
>何

画面を睨み、スングァンは眉根を寄せた。何って何が?あと、疑問形もまともに使えないの?

To:未登録
>難しい質問じゃないと思うんですけど

From:未登録
>違う
>けど、もしかしてカフェ?

To:未登録
>うん

From:未登録
>あのバカ
>ごめん、友達の仕業
>いつもは現行犯で捕まえるんだけど。疲れてて見逃した

耳の奥で自分の心臓がドクドクいっているのが聞こえる。今日チップをくれた人たちの中で、一人客じゃなかったのは確か彼らだけだ。例の「アイスアメリカーノとイヤホンの男」と、その友達の二人組。

To:未登録
>なるほど

From:未登録
>変な流れだけど……今日空いてたら夕飯でもどう?

飲んでいたコーヒーが気管に入りかけ、スングァンは咳き込んだ。

To:未登録
>もしかしてドッキリなの?
>ジョンハニヒョンにやらされてる?

だとしたら絞め殺してやる。

From:未登録
>誰?

前言撤回。命拾いしたね、ヒョン。

To:未登録
>あとで教える
>でも緑の服の人と一緒でベッドから出たばっかりみたいな恰好してたイヤホンの人じゃないなら教えない
>違うならブロックするし、もし連絡してきたら警察に言うからね

そんなことにならないといいけど。もしこのせいで別の仕事を探す羽目になったら最悪だ。

From:未登録
>緑の服の人とはベッドの中では一緒じゃなかったよ。念のため

To:未登録
>ウケる。芸人志望?

From:未登録
>学生。心理学専攻。ハンソル
>7時にカフェでどう?チップに書かれてただけの知らない番号の相手に住所教えるのは嫌でしょ

To:ハンソル
>7時にカフェで。

From:ハンソル
>了解

了解。座ったまま、たっぷり1分はハンソルからの返信を眺めたところで、スングァンはようやく気がついた。やばい。
デートだ。
しかも、あと3時間で。

"緊急連絡先"に急いで電話をかける。だって、これはどう考えても緊急事態だから。

『ヘーーーイ、スングァナ!』

もう。何その返事。
相手には見えないと分かっていても、わざと呆れ顔を作る。

「ミンギュヒョン助けて、デートまで3時間しかないの」

物が落ちる音、人の体が家具にぶつかる音に続いて、『ああもう』という軽い悪態が電話越しにスングァンの耳に流れ込んできた。

『今行く』

☕️☕️☕️

スングァンは、キャップを被りパーカーを羽織って家を出た。どんな店に行くか分からないから、念のため中には少し綺麗めのシャツ。自分一人じゃこんなこと思いつかなかったと思うし、ミンギュヒョンに感謝だ。

ハンソル(間違いなく「アイスアメリカーノとイヤホンの男」だった)は、チェックのシャツに黒のニット帽姿でスングァンを待っていた。キャップとパーカーで正解。本当に、後でヒョンにはお礼言わないと。
スングァンが近づくのを見たハンソルの顔に、大きな笑顔が広がる。うわ、こんな顔もするんだ。
こんな笑顔を向けられ続けたら、食事が終わるまで心臓が持つか自信がない。

「一応他の案もあるけど、チキンはどう?」

綺麗な顎のラインに見惚れて、一瞬返事が遅れる。

「チキンでいいよ」
「ちょっと歩いたところに店があるんだけど」

スングァンの返事を聞き、ハンソルが通りの先を指差す。どこの店のことを言っているのか、スングァンには分かった。言葉を返す代わりにハンソルの手首を掴んで、先に歩き出す。
すぐに振り解かれなかったことに勇気をもらい、握った位置を少し下に滑らせて手を繋ぐ。

これで少しでも良い反応が返ってきたら、明日からコーヒーの量を毎日一杯減らします。
心の中でそう神様に約束した直後に、繋いだ手が控えめに握り返されるのを感じて、ちょっとだけ後悔した。

☕️☕️☕️

元々、デートはあまり得意じゃない。最初のデートは特に。大抵のデート相手は挙動不審だったり、スングァンのことをお持ち帰りしようとかっこつけていたりする。そういうのが本当に嫌いだった。変に取り繕うのをやめれば、あの人たちだって無駄な時間を使わずに済むのに。

その点ハンソルは率直で、飾らない性格だった。
ニューヨーク生まれ。両親は芸術家で、妹が一人いる。「チャン」は友達兼ルームメイト兼悩みの種。12歳の時に腕を骨折したことがある。ピーナッツアレルギー。今学期は8時からの講義を取ったせいで、朝が地獄(今朝は本当にベッドから出て、一番近くにあった服を着ただけで家を出たらしい)。猫を飼っている。最後に恋人がいたのは高校生の時。大学で遠距離になるから別れることになったけど、立ち直るのに一年かかった。遊びで人と付き合うのは嫌い。

自分のことを話すだけじゃなく、ハンソルはスングァンのこれまでの人生や大学での専攻内容にも興味を持って、家族のことや韓国生まれであることまで聞きたがった。今までスングァンをデートに誘ってきた男たちとは全然違う。端的に言えば、最高だった。
話が弾み、閉店時間になって店から追い出されても、ハンソルはスングァンを連れ帰ろうとする素振りも、その先を仄めかすような様子も見せなかった。

店を出るとハンソルはスングァンの手を取って、家まで送ると言って聞かなかった。指を絡めるわけでもなく、ただ手のひら同士を重ねて握り合うだけ。子供の頃、遠足で友達とペアを組まされた時みたいだ。一つだけ違うのは、ハンソルの指がずっとスングァンの手を優しく撫でていたこと。
ふと昔のことを思い出した。靴下をふわふわのカーペットに擦り付けて、誰が一番に静電気を起こせるかを姉たちと競い合ったっけ。手の甲を撫でていく指のやわらかさは、その時の感覚に少し似ていた。

夜とはいえそこまで冷え込んではいなかったけれど、スングァンはハンソルを部屋に招いた。ほら、帰る前にちょっとだけでも暖まった方がいいし。
玄関に入ったハンソルが、目線を落としてじっと靴を見つめる。スングァンは被っていたキャップを脱いだ。

「……どうしたの?」
「チャニにうまく報告する方法を考えてた。たぶん他人をくっつけるのが世界一上手だって勘違いするし、一生恩に着せられるから」

それって——もしかして、わりと好感触?
一歩分だけ距離を縮める。

「彼もまだまだ伸びしろあると思うよ」
「何かアドバイスある?」

ハンソルの顔が上がり、二人の目が合った。
気をつけないと変なことを口走ってしまいそう。また一歩、足を前に出す。

「別の友達を手伝ってもっと経験を積みましょう、とか?」
「伝えとく」

真剣な顔で返事をしたハンソルの表情は一瞬で崩れて、面白がっているような笑顔が浮かんだ。優しい笑顔のまま、スングァンの顔をじっと見つめる。もう真夜中近いなんて関係ない——時間なんていくらでもある、そんな視線で。

スングァンだって、どういう展開か分からないほど子供じゃない。いやというほど映画で見た流れ。でも、まだ理解が追いつかない。だって目の前の相手はこんなにもイケメンで、こんなイケメンとこんな雰囲気になるなんて、今までなかったから。
とりあえず、頭に浮かんだことを口に出す。

「ニット帽被っててもかっこいいってなんなの?」
「さあ」

笑ったハンソルが少し前に踏み出して、また二人の間の距離が少しだけ縮まる。スングァンの脳はそれを合図と認識したようだった。目の前にある首に思い切って両腕を回す。唇同士が重なった。

1回目のデートでその相手と寝るなんて、いつもなら絶対しない。ハンソルも同じだと知ってはいるけれど、もしこのままベッドに行く流れになったらスングァンは自分の主義を守り通せる自信がなかった。服の下に滑り込んだハンソルの手に身体が引き寄せられて、逃げ出したいような、それでいて永遠にこうしていたいような気持ちになる。まるで古いお化け屋敷に閉じ込められたみたい。怖い気持ちを乗り越えたら、逆にちょっと居心地が良い気すらしてくる、そんなところが。
ついでに、ハンソルはキスが上手だった。なんでハンソルの被っていたはずのニット帽が自分の手の中にあるのか、全然思い出せない。いつから自分の背中が玄関のドアに押しつけられているのかも。

でも、もうなんでもいい。時間なんてどうせ、人間社会が作り出した概念でしかないんだから。

ただ、悲しいことに、人間社会はスングァンに非情だった。明日のシフトは朝番で、店を開けなきゃならない。仕方なくハンソルの肩を軽く叩いて、ストップの合図を送った。この地球に生まれて20年と少しの人生の中で最悪の気分——いや、大学受験の時よりはちょっとだけマシかもしれないけど。
顔を離したハンソルが唇を尖らせて不満の意を表明する。

「ごめん、明日の朝早くて……でも今日はほんとに……すごく楽しかった」

『楽しかった』なんて控えめにも程があるんだけど!
ハンソルが申し訳なさそうに眉間に皺を寄せる。かわいい反応。

「早く言えばよかったのに」
「ううん、大丈夫。でもこのままだとちょっと、ね。ほんとはそうしたいんだけど」

ハンソルが屈み込み、スングァンの片頬にキスを落とした。

「わかった。おやすみ、また連絡して」

ハンソルが去ってからも、スングァンの頭はしばらく霞に包まれたようにぼんやりとしていた。まだニット帽を握りしめていることに気付き、玄関のドアに背中を預ける。小さな微笑みが溢れた。

あのお札、額に入れて飾ろうか——そんな考えが、ふと頭をよぎった。