Chapter Text
どのカップルにもひとつくらいは上手くいっていないことがある。
どれだけ本人たちが円満であろうと、必ず何か一つは上手くいってないものがあるはず。人それぞれ変わってくるけれど、例えばパートナーの家族との関係や、エアコンの温度設定の違いだとか、仕事が忙しくてなかなか会えないだとか、絶叫マシンの耐久性だとか、エトセトラエトセトラ...
けれど傍から見て、ロンジュンとジミンは何もかもが上手くいっているように見えた。いや、ジミンの親友として、えりは二人が理想の恋人生活を送っていると知っていた。二人はロンジュンの従姉妹であり、ジミンとえりの大学時代の後輩であり、妹のように可愛がった友人のイーチュオの紹介で知り合った。自分よりも二年早く卒業するジミンやロンジュンの就職先が近所であることを知り、恋人と別れたばかりだったロンジュンと、長らく出会いを求めていなかったジミンをイーチュオは出会わせて、無事二人は恋に落ちてめでたしめでたし...
要約すると、それで間違ってはいなかった。二人は恋人以前に性格が合うらしく、カップルとしても仲良くやっていた。ジミンはしっかり者だけど案外妹気質で、甘えたがり。ロンジュンは年上の女性に囲まれて育ったのもあり、持ち前の愛嬌で可愛がられ上手だったけれど、面倒見も良い。そして二人とも好奇心が旺盛。知らない世界への探求心が強い。ロンジュンは銀河や宇宙への関心が強く、ジミンは絶滅した恐竜のちょっとしたマニア。宇宙人であろうと、モササウルスだろうと、クレヨンしんちゃん、EXO、少女時代、マーベル映画、何であれ、他人からは子供っぽいと一言で片付けられてしまいそうなことに対して馬鹿にされることを恐れずに熱心でいられる二人の関係性は良好と言えるはず。いつかはメディアのせいなのか、身長差のあるカップルへの憧れのようなものが社会全体にあった気がしたけれど、五センチ未満の身長差だってメリットが多かった。常にお互いと視線が合うし、キスだってしやすい。
お互いの趣味への理解があり、家と職場が近く、ルックスもお似合いで、仲良しなカップルにこれ以上求めるものなんてあるのだろうか。
少なくとも、えりには考えられなかった。だからこそ、ソファでビールを握りしめているジミンが「ロンジュニのことで相談がある」と言い始めた時には驚きを隠せなかった。人間関係なので、どれだけ仲が良かろうと喧嘩をすることくらいある。言い合いにでもなったのだろうか?ジミンの眠たそうな口から飛び出したことはえりの想像していたようなこととは180度違った。
「エッチのことなんだけど」
女同士、お互いの性事情について話すことは初めてでは無かった。かといって、頻繁に話すような話題でもない。ジミンだって、お酒が入っていなければ自ら話したりしないだろう。
「どうしたの...?凄い下手とか?ああ見えて乱暴とかじゃないよね?」
ジミンは眼鏡の奥の目を見開いて首を振った。いくらなんでも、そんな濡れ衣を彼氏に着せるわけにはいかない。えりは小さく息を飲むと、分かったような眼差しをジミンに向けた。
「もしかして、勃たないの?」
そんな風にえりが心配するのも無理が無かった。確かに、ロンジュンはジミンと付き合うまでずっと同性としか付き合っていなかったと。最初で最後に付き合った異性は中学二年生の時で、ファーストキスさえその子では無かったというのだから、異性との性経験が無かったのは言うまでもない。けれどこれにもまたジミンは首を振った。
「ちがうちがう。別にそういう問題があるとか、下手とか、そんなのじゃないよ。不満があるわけじゃないけど、どうしても考えちゃうじゃん。あっちは本当に満足なのかな?って」
「満足そうじゃない?」
「そうじゃないんだけどさ...」
どんな性行為だってスタートや過程が何であれ、ゴールラインは同じだ。男女であろうと同性であろうと、何であろうと。フィニッシュはオーガズム。そんなことは誰かが決めたものでもないけれど、皆が知っていること。だからこそ、最終的に射精することができれば、ある程度セックスとして成り立っていると言える。そこに愛もあるのだからこれ以上望むものも無い。はず。
ジミンの表情が曇るのを見て、えりもようやく納得するのだった。
「ロンジュニってボトム?」
ロンジュンと正式に付き合い始めるまで所謂ゲイ用語に詳しく無かったジミンだけど、今ではそれくらいのことは知っている。そして初めて身体を重ねる前に、ロンジュンが今までの男性の恋人たちとの行為において性器を受け入れる側であったことも聞かされた。ジミンはえりの質問に頷きながら、ようやく大事に手に握りしめていた缶を手放した。
「そう。だからって何かが下手くそとか、不満があるわけでもないのに、今まで別のとこを使って気持ちくなってた人が急にそこを使わないエッチに満足できるのか気になるんだよね。そりゃ本人は優しいからそんなことは言わないけどさ」
「なるほどね。じゃあジミニが後ろも弄ってあげたら?」
邪魔になった前髪をジミンとお揃いのクレヨンしんちゃんのヘアクリップで止めながら話すえりに、ジミンはポカンと彼女の横顔を見つめた。大したことでは無いように言うのだから。
「後ろを...?私が?」
「うん、アナルセックスしたことある?まぁ、ジミニが経験無くても相手が慣れてるって思えばそんなにハードルは高くないと思う。ヘテロの男でも女の子に抱かれてみたい人とかいるみたいだし、ロンジュニはバイだっけ?どっちにしろ、ジミニに抱かれるのなら絶対嫌じゃないと思うし、ペニスバンドなら私持ってるからいるなら貸してあげるよ。新しく買うのもあれだったら」
そんなことを言われても、突然の情報量に目眩がしそうだった。まだ一缶しか飲み終わっていないのに。ペニスバンドだって、何となく女性同士の行為で使われるアダルトグッズであるという認識しか持っていなかったのだ。えりがバイセクシャルであることはジミンも知っていたし、女の子との経験があるのも知っている。だからといって、ペニスバンドが男女で使えるものであることを示唆されると何故か脳が驚いていた。自分一人では考えてもいなかったことだからかもしれない。
「私がロンジュニを抱く?」
自分で言葉にするだけでジミンの狭い額の生え際まで赤く染まるのだから、えりは小さく笑った。
「うん。難しいかな?それとも普段エッチの時に玩具とか使ったりする?ディルドとかあるならそれ使ってあげるのとかでも良いと思う」
「そんなの使ったことないよ~、全部私にはハードル高いんだけど?!」
肩を掴んで嘆くジミンに揺さぶられると、えりは考え込むのだ。まあ、難しいなら仕方がない。えりの中では一番簡単に感じた手段ではあったけれど、ジミンにはそうでも無いらしい。基準は人それぞれだ。
「じゃあ、他の人に頼むとか?身近に信頼できる男いないの?」
「それってつまり、シてる時に他の男を呼ぶってこと?」
「そう。アプリとかSNSでもスリーサムの三人目の募集とかって結構あるし、試すのもありかもね。二人がそれでも大丈夫なら」
ジミンは想像するのだった。裸の自分と、裸のロンジュンと、それから裸の知らない男が同じ空間にいること。思わず身震いし、ため息をついてしまう。せっかくこれほど考えてくれているえりの提案を全て却下する自分が頑固で古い人間のように感じてしまうけど、抵抗を感じずにはいられない。
「でも、やっぱ知らない男にそういうのを見られるのは...」
「そりゃ難しいか。ん~私で良ければ全然ロンジュニぐらい抱いてあげられるけど」
半分笑いながら呟くえりにジミンは動きを止めて、えりの顔を見返すのだ。そしてえりの顔を見つめながらも、頭は別の光景を思い浮かべていた。裸の自分と、裸のロンジュンと、それから裸のえりが同じ空間にいること。具体的なあれこれは分からないけれど、そこでえりがロンジュンを抱くこと。
「あ、すごくいいじゃん」
「え、いいの?」
今夜初めてえりの方が唖然とした顔を見せても、ジミンは口角を上げてブンブンと頭を縦に振った。
「えりなら私もロンジュニもよく知ってるし、信頼できるし...それにえりは初めてじゃないでしょ?ソレ使うのも」
ペニスバンドを使うのも、言ってしまえば男を抱くのだって初めてでは無かった。それでも慎重にはなってしまう。
「初めてじゃないけど...まじで言ってる?」
半分冗談で言ったようなものを直ぐに聞き入れてくれるとは、えりも想像していないことだった。いいや、冗談で言ったわけではない。ただ、自分が今まで提案したものを却下され続けて、いきなりここでジミンが食いつくとは思ってもいなかった。
「私はそれが一番いいと思う」
「でもロンジュニは?」
彼女にいきなり「私の女友達に抱かれてみない?」なんて言われて嬉しい男はいるだろうか。いるかもしれないけれど、何よりも戸惑いが大きいに決まっている。
そしてえりの予測は今度こそ当たっていた。
💗
スリーサムというならば、該当者三人に同意を取る必要がある。今現在、賛成しているのは二人。それから、ロンジュンは何も知らずに暗い画面の中に映るホラー映画に息を潜めている。
「あああ!」
ジミンの肩に腕を回したまま叫ぶロンジュンが首筋に顔を埋めて来る間も、ジミンは食べかけのチキンを落とさないように握っていた。大体というか、ほぼ確実に、最後まで残ったものを食べるはめになるのはいつもジミンだった。単にロンジュンの胃袋が小鳥サイズで、ジミンがその何倍も食べるというだけでもあるのだけど。
「ロンジュナ、『死霊館』全部観たって言ってなかったっけ?」
初めて観た人のような反応を見せるロンジュンに聞きながら、ジミンもクローゼットの上に現れた化け物に視線を動かした。本当はそれ以上に聞きたいことがあるのだけど。
「でも最初から見返すのは久しぶりだよ」
十秒ごとに肩を震わせて、五分ごとに「びっくりした」と跳ね上がり、十分ごとに叫ぶロンジュンを見ていると、ホラー鑑賞が好きなのが不思議になってしまう。それでも本人はホラー映画は有名どころは全部観たと言い張るほど好きらしいのだから、尚更。
「マゾなの?」
「えー?」
「あっ、なんでもない」
無意識に出た自分の言葉にチキンの残りを噛みながらも含み笑いが漏れてしまうし、後ろから腰を抱いたままロンジュンがうなじに「なんなの」と嘆くせいでくすぐったい。鳥の骨をようやく空になったデリバリーの箱に入れると、ゴミをまとめて立ち上がるので自然とロンジュンもカーペットに座ったまま見上げた。
「あぁ、なんで怖いの観てる時に一人にするの」
「いや、ゴミ捨てて手洗わなきゃ」
そんな不安そうに見上げなくなって9畳の一人暮らしの部屋でどこへ行けるだろうか。唯一部屋と廊下を区切る扉を開いて後ろから着いてくるロンジュンに笑いながらも、ジミンも文句は言わなかった。
「成人男性にしたら小さいけど赤ちゃんにしたら大きいね」
「ひどい。君こそよく今一人で暗い廊下に行けるよね」
「いや私も怖がりだけど、目の前じゃん」
電気をつけてからゴミを分別し、シンクで手を洗う間も狭い廊下についてくる彼氏に笑ってしまう。確かに部屋からは物騒な映画の音声が流れているけれど、それでもロンジュンがいるからか全く不気味な雰囲気は消えていた。
「それでも。トイレもお風呂も寝るのも一人は嫌にならない?普通ホラー映画観たら」
「うん、まあ少し?だから私も一人じゃ見ないよ」
「だよね」
ジミンはそのまま冷蔵庫を開くと、真後ろのロンジュンに振り返った。
「フレッシュとマスカットどっち?」
緑色のチャミスルの瓶を見てもロンジュンは肩を竦めた。
「君が選んで」
「ソーダで割る?」
「まだそんなに酔ってないでしょ」
その通りではあった。酒のキャパまで近い二人が焼酎を一本二人でシェアしたところで、まだアルコールの効果はほとんど感じられていないようなもの。赤くなるのはロンジュンの方が早いけど、酔うのはジミンの方が早かった。それでも限界はほとんど同じ。
だから未だに酔ったと言うには程遠いジミンの頭に浮かんだ質問も、未だに喉奥で大人しく眠っている。
それでも二本目を飲み終わる頃にはアルコールの効果を感じ始め、映画もエンドロールに入っていた。
「やっぱ実話だから余計に怖い」
「一人で寝れないくらい怖がりなのに、そんなに怖いのが好きなの不思議」
「でもそうしたら君も一緒に寝てくれるでしょ」
そのままベッドまで一緒に引っ張られると、ジミンはあえてロンジュンの腕の中から逃げようと抵抗する素振りだけを見せた。そんなつもりは全く無いのだけど。
「うわぁ、あざとい子。そうやって何人もの男落としてきたんだね」
「人聞き悪い」
「でも本当でしょ」
寝転んだまま横になって腰を抱くロンジュンを見上げると、照れくさそうにえくぼが現れた。そのまま唇を重ねてくるロンジュンは否定するのを諦めたみたいなのだから、ジミンもキスの中で笑った。お互いの口にほのかにマスカットの味が残っていて、思わず追いたくなってしまう。体を起こし、直ぐに膝の上にジミンを引き上げてキスを深めるロンジュンをジミンも許した。けれどキスに溺れ過ぎない程度に口を離す。何も知らないロンジュンはそのまま唇ではなく、ジミンの長い首に顔を埋めて唇を沿わせるだけなのだけど。
ジミンはロンジュンの柔らかい茶髪に指を通しながら、ここ数日ずっと言おうとしていたことを思い出すのだった。
「聞いてもいい?」
「ん?また恐竜に生まれ変わっても愛してくれるかっての?」
鎖骨に直接囁かれる吐息が暖かくて、くすぐったい感覚に耐えながらジミンは首を振った。
「違うもっと真剣な話」
「この前も随分真剣だったじゃん。恐竜になろうと、ミミズになろうと...あ!」
髪を引っ張って顔を上げさせると、ロンジュンは痛みに顔を歪めて後頭部を片手で抱えていた。
「痛いよ」
「痛いの好き?」
「えぇ?」
ぽかっと口を開けて見つめ返してくるロンジュンに笑いながらも、ここまで来ると一週間溜めていた言葉が自然と溢れるのをジミンも感じていた。
「正直、お尻使わないの寂しいんじゃない?」
「...お尻?」
綺麗に整えられた眉を顰めるロンジュンは、まだ理解が追いついていないようだった。自分で言っておいて、もどかしくなると、ジミンはロンジュンの肩をポンポンと叩きながら声を上げた。
「ヤー、ロンジュナ今までずっとアナルセックスしてたでしょ!」
「あっ、ちょっとなに?急だよ!」
「だから、私と付き合ってからは今までと全然違うセックスしかしてないじゃん。急にお尻使わなくなって、正直恋しくならないの?」
ジミンが調べた限り、アナルセックスの良さを知ってしまったほとんどの男性がその快感を手放したがらないという話。ネットの掲示板がどれだけ信用できるかは分からないけれど、多くの人が言うのには理由があるはず。顰められていた眉が今度は角度を下げるものだから、ジミンはロンジュンの目に浮かぶ新たな感情を読み取ろうとした。
「そんな風に見えた?」
何かを言われると考え過ぎてしまうロンジュンのことはよく知っている。今度もまた、心配しなくてもいいことで不安になっているのかもしれない。
「そうじゃなくて、」
「俺がいつか掘られるのを求めて君の傍を離れるとでも思う?不安にさせた?」
バイセクシャルのパートナーと交際するヘテロセクシャルの不安としてよく上げられるものの一つなのだけど、ジミンは首を振った。少なくとも自分が今そのように余計な心配をしている訳では無いことは知って欲しいのだから。
「そうじゃない。そんなこと心配してないよ、ブラキオサウルスになっても愛してくれるっていうのに」
ロンジュンは頬をジミンの手に包まれ、数秒前の不安を浮かべていた表情を崩してクスリと笑った。
「別に今満足してないわけじゃないんだよ。でもロンジュニは?」
「俺だって同じなのに。本当に満足してる」
大真面目な顔で見つめてくるロンジュンに微笑むと、腰から抱き寄せられるのを止めなかった。
「ロンジュナ、私と付き合い始めて四ヶ月ずっとオナニーしてないの?お尻で」
「なんでそんなこと聞くの。それとこれは関係ないじゃん」
紅潮した顔で口をパクパクとさせるロンジュンはまた予想の斜め上の質問に戸惑っていたけれど、反対にジミンにはその答えが一目瞭然だった。
「一回でいいからさ、試してみない?」
「...なにを」
「えりがロンジュニのこと抱いてくれるって」
「...はい?」
ロンジュンの混乱した顔を見てもジミンは表情を変えなかった。
💗
どこで間違えたのだろうか。どんな生き方をしたら、彼女の口から、私の親友に抱かれてみない?なんて言葉が出るだろう。
ロンジュンだって分かっていた。同性との恋愛はそれなりに充実していた割に、異性とは久しかった。確かに、自分は女性との経験が豊富では無いどころか、女性と付き合ったのは約十年ぶりだ。そこら辺の中学二年生がそれなりにませたことはしているとはいえ、その時ロンジュンが一年生のミンジョンとしたことと言えば、手を繋いで何回か近所のカフェでデートをしたくらい。いくらバイセクシャルであろうと、そこの男女比なんてものは個人差があるし、何がいいとかそんなものは無いので気にしていなかったのだけど、やはり23にして初めて経験するような気持ちになることは多かった。
異性に恋愛的に惹かれるのも久しぶりで、これまで同性の恋人たちとは経験したことを一から覚え直しているような気分になることもあった。そのうちのひとつがやはり、性行為なのだ。
ジミンの口からえりに抱かれる話題が出た時、ロンジュンは呆気に取られた頭の中で、歴代寝た男たちを罵った。何故か、彼らを責めるのが一番簡単な気がしたのだ。高校生の時に初めてできた彼氏のマークのせいかもしれない。少しどこか抜けているところもあるけれど、誰が見ても模範生。優秀で真面目で、敬虔なクリスチャンである彼が最初にロンジュンにセックスを教えた男だ。
それか、大学に入学して初めて付き合ったドンヒョクのせいか。勝手に遊び人で慣れていると解釈していたドンヒョクは、男と付き合うのは初めてだと言いながらも、何事も習得が速かった。親元を離れて暮らし始めて一番盛んだった頃に付き合っていたので、実際の交際期間が一年未満でも寝た回数はそれなりに多い。
もしくは、ドンヒョクと別れて直ぐに出会ってセフレになったジョンウのせいか。除隊してロンジュンの学年に復学したジョンウは面倒見が良く、年上らしい優しさがあったけれど、それなりに激しいセックスも楽しんだ。お互いが相手を見つけるまで続いた関係の中で、マークとドンヒョクよりも更に奥が深い性の世界を教えてくれた。人生の先輩であり、特殊プレイを教え込んでくれたなんて他の人には言えないけれど。
でなければ、大学卒業まで付き合っていたジェミンのせいか。今までの人生で一番長く付き合った相手であり、セックスにおいては新たに何かを教えてくれたわけでもないけれど、間違いなく一番上手かった。単に相性が良かったのかもしれないけれど。
「女の子抱けないカラダにしちゃおうね」
脳内で再生される声が誰のものなのか分からなかった。まるで四部合唱だ。バリタチのジェミンだろうと、サディストのジョンウだろうと、悪戯好きのドンヒョクだろうと、スイートだけどむっつりなマークだろうと、誰が言っていても驚かない。間違いなくこの中の誰かが言った言葉なのだ。日が経つうちに全員に言われたのではないかとさえ思い始める、安っぽい言葉責めの呪い。当時はそんな言葉に興奮した自分がいたのかもしれないと思うと余計に腹が立つ。
初めてジミンを抱いた夜、「女の子抱けたじゃねーか!」とあの台詞を言ってきた相手に今更報告してやりたくなった。どうせ相手もそんな言葉を放ったことなんて覚えていないと分かっているのだけど。それに、まあ、ロンジュン自身、相手が思い出せない程度のことではあった。
それでもやはりジミンとのセックスは慣れないことばかりであろうと、悪いものでは無かった。どれだけロンジュンが不慣れであろうと、ジミンは「かわいい」と微笑みながらも嫌な顔は見せずにリードしてくれた。性行為というもの自体が初めてのバージンでも無いのに、彼女の前で自分だけが経験不足のように感じるのは自尊心が多少傷つくこともあるし、恥ずかしいような気もしたけれど、そんな負の感情が嘘のようにジミンとの時間はいつも幸せだった。だからそんな余計な心配も不安も自然とロンジュンの中で消えていた。
付き合ってそろそろ五ヶ月になる。もう女の子の裸を見たことすら無かった頃とは違う。ブラのホックを外すのに手こずることも無いし、指を挿入する前に「本当にここで合ってるよね?」と確認してジミンを笑わせるようなことも無い。全て充実していて、完璧だった。少なくとも、ロンジュンの中では。
だからこそ、ジミンの提案に不安が生まれてしまっても仕方がないことだろう。セックスに満足していたのは自分だけだったのだろうか。ジミンは優しいから満足していないのをずっと隠していたのだろうか。そんな悲しいことはない。女性のオーガズムは男性の射精に比べて視覚的に決定的なものがあるわけでもないし、達したように演じることができるという話は聞いていたけれど、もしも本当にジミンもそうして自分に付き合ってくれていたのかもしれないと思うと、とてつもない罪悪感と羞恥心に襲われる。
「ロンジュナ?」
頬にジミンの手を感じると、ロンジュンも膝に座ってとんでもないことを聞いてきたジミンを見つめ返した。そんなロンジュンの瞳からジミンも直ぐにロンジュンの考えていることを見抜いていた。
「あ〜やっぱ変に誤解してるでしょ。違うのに。信じて?」
「でもなんでいきなりそんな話になったの」
ロンジュンは人生のほとんどを女性に囲まれて生きてきたし、女友達も少なくなかったけれど、女の子二人の会話がこのような展開になることは想像しがたかった。「私の彼氏抱きたい?」「うん!」それとも、「あんたの彼氏の抱いていい?」「どうぞ!」...こんな感じだろうか。何度考えてもありえない会話のような気がするのに、目の前のジミンは決してふざけた様子は見せない。もしも後でどっきりでしたなんて言われたら、めんどくさいと怒られるまで拗ねてやろうと思う。だけど「どっきりでした!」なんてフレーズはいつまで経ってもやってこなかった。
「だってお尻でイける人がずっと使わないでいるのも少しもったいない感じする」
「ああもう」
不安が弾けて笑いが生まれると、ロンジュンは火照った顔をジミンの首筋に埋めて隠した。ボディクリームの香りがほのかに残るジミンの肌は滑らかで、離れたくなくなる。それに今は無駄に恥ずかしくて、ずっとここに顔を埋めていたい。
「それに、正直ちょっと気になる」
「彼氏が女友達に抱かれるの?ジミナ、そんな性癖聞いたことないよ」
「や、そんなんじゃないよ」
普段は簡単に赤面するジミンが真面目にこんなことを提案してくるなんて意味が分からなかったけれど、いざ余計な心配が消えると、今度はその変態チックな響きに恥ずかしくなる。それでも考えてみると、そんなに悪くはないのかもしれない。
綺麗な女の子二人と3Pを望む男なんてこの世に山ほどいるだろう。自分は今まで考えたことも無かったけれど、全員の同意があるなら、そこまで悪い話ではない。
「分かった、君がそんなにしてみたいなら」
「やった」
小さくガッツポーズをするジミンに声を上げて笑うと、座っていた体勢を崩すように腰を抱いたまま寝転んでジミンの上に覆いかぶさった。
「本当にどうしようか、この変態さん」
枕に埋まったジミンはロンジュンの言葉に微笑み、そのままうなじで引き寄せて口を重ねた。それからロンジュンの手がトップスの下に滑り込んできても、ジミンはキスを深めるために口を開いてロンジュンの舌を誘った。
そうして今夜もまた身体を重ねると、ロンジュンだって自分の心配が余計なものだったと分かり、安堵と性欲と心が全て満たされた状態でジミンの隣で眠りにつくことができるのだから。
彼女が親友に抱かれてみないかと提案してきたって、今のセックスに満足していないとは限らないと、ロンジュンも学んだところだ。
